ピタゴラスという名前はとてもよく知られているでしょう。
この名前をもじったNHKの某番組がありますね。
また学校数学でも習う「三平方の定理」は、別名「ピタゴラスの定理」とも言われています。
直角三角形において、「直角を挟む2辺の長さをそれぞれ2乗してから足すと、斜辺の2乗に等しくなる」という例のアレです。
言うまでもなく、ピタゴラス(またはピタゴラス学派の誰か)がこの定理を発見したから、この名前がついているのです。
要するに、ピタゴラスは古代の大数学者だったわけです。
紀元前6世紀の人ですから、ソクラテスよりも100年くらい先輩でしょうか。
歴史上、最大の数学者は誰かと問えば、人によって答えは違うかもしれませんが、18世紀のオイラーや19世紀のガウスなどが有力候補になるかもしれません。
しかし、古代からは、間違いなくこのピタゴラスがエントリーされるでしょう。それほど、彼の数学への貢献は大きく、後世の人々から篤く尊敬されているのです。
万物は数から成る
ピタゴラスの思想として、「万物は数から成る」というものがあります。
これはおそらく、「この宇宙は数によって支配されている」、あるいは「宇宙は数学的な構造を持っている」ということを言わんとしているのでしょう。
はるか後代のガリレオ・ガリレイ(1564-1642)が「宇宙は数学という言語で書かれている」と述べましたが、これも同じ感慨を表したものです。
確かに、宇宙を支配している物理法則は数学によって記述することができます。言い換えるなら、世界の構造そのものの中に、数学が組み込まれているわけですね。
考えてみれば、不思議なことです。どうしてそうなっているのでしょう?
誰も科学的に説明してくれたことはありません。
科学というものは、まだ知られていない自然の法則を発見したり、それらの法則を使って自然現象を説明したりはしてくれます。
しかし科学は、「なぜそれらの自然法則が存在しているのか」「なぜ自然法則は数学的に秩序立っているのか」という疑問には答えてくれません。
これは科学を超えた問いであって、哲学や神学の領分に属する問題でしょう。
この世には、科学を超えた〈神秘〉〈深淵〉が厳として存在するということです。
ピタゴラスをはじめ、古代ギリシャ哲学を知ることは、この神秘に目を向けて思いを馳せるきっかけになるのではないでしょうか?
なお余談ですが、ピタゴラスは、すべての数は、整数の比(つまりは分数)で表現できると信じていたそうです。現在の用語で言えば「有理数」しか認めなかったのです。
ところが弟子の1人が、整数の比で表せない〈ルート2〉のような「無理数」を発見してしまいました。
そこでピタゴラスは(真偽不明ながら)その弟子を処刑してしまったという伝説があります!
できれば嘘であってほしいエピソードですが……
また、なぜか豆がとても嫌いだったとか、よく分からない話もあります(^^;)
敵に追われた際、豆畑を迂回したために捕まって殺されたとか。ホンマかいな。
時代を先取りした大巨人
さてこんなピタゴラスですが、実は「ピタゴラス教団」を率いる、宗教の教祖でもありました。
人間の魂は転生輪廻しているとし、その魂が肉体によって穢れてしまわないよう浄化せよと説き、信者たちに修行をさせていたのです。この魂の浄化を「カタルシス」と言います。
この基本的な発想は、後世のソクラテスやプラトンにそのまま受け継がれ、西洋哲学・西洋倫理学の1つの流れとなっていきます。
さらにピタゴラス学派は、文献的に確認できる限りでは、地球は球体であるという「地[球]説」、大地が動いているという「地動説」を説いた最初期の例です。
地動説などは、近世になって初めてコペルニクスたちが発見したわけではなく、古代でも一部の人たちはすでに分かっていたわけです。
ただし、ピタゴラス学派の地動説は、現代とは少し違った変則的な地動説だったようですが。
ちなみに前3世紀のアリスタルコスは、現在と同じ「太陽中心の地動説」を完成させていました。
このように、ピタゴラスは時代を先取りする大巨人であったのです。
ときには、こうした古代のスーパーマンに感謝の念を捧げてもよいかもしれませんね。(了)
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