霊が存在する理由(3)幽霊を科学的に調査する

宗教哲学

 

前回記事「霊が存在する理由(2)懐疑も度を超せば有害」では、近年の臨死体験研究をご紹介しながら、霊が存在すると結論せざるを得ない理由を述べてきました。

霊が存在する理由(2)懐疑も度を超せば有害
前回記事「霊が存在する理由(1)否定しがたいケースの存在」では、幻覚とは考えにくいパメラ・レイノルズという人の臨死体験をご紹介しました。 今回も引き続き、いくつかの事例を考察してみたいと思います。 エベン・アレグザンダー...

 

ところで霊の存在証明については臨死体験研究だけが重要というわけではありません。他にもあります。

それはズバリ、「霊が出た!」という報告の研究調査です。

今回はいくつかの参考文献をもとにしつつ(ごくごく一部ではありますが)そうした研究をご紹介します。

 

心霊現象研究協会(SPR)のすごすぎるメンバー

 

以下でご紹介するのは「死者の霊あるいは生霊と思われるものが出現し、それが目撃される」という事例です。

これ、別に突拍子もないことを言っているわけではなくて、改めて聞いてみるとけっこうな割合の人が体験しているんですよ。実は僕も経験があります。

 

近代の心霊研究では、そのような「出てきたもの」を「phantasm」「apparition」などと表現しているようです。

日本では「幻像」とか「出現物」などと訳されることもありますが、ちょっと分かりにくいのでここでは「霊出現」で統一することにしましょう。

本当は「ghost」(幽霊)でいいと思うのですが、幻覚も含められる客観的で広い表現が好まれてこうなったのだと想像します。

 

実は、20世紀後半に本格化した臨死体験や生まれ変わりの研究に先立ち、19世紀後半から20世紀初頭にかけて欧米を中心にこの「霊出現」についての研究が起きているんです。

特にイギリスで設立された「心霊現象研究協会」(SPR)という団体が「霊出現」研究の中心となりました。

すぐにアメリカでも団体が設立され(ASPR)、英語圏全体で研究が盛んになりました。もちろんそれ以外の国々からも研究者が参加しています。

 

幽霊の研究なんて、よほど変わった人たちなんだろうと思うかもしれませんが……。

なんのなんの、これがなかなかとんでもないメンバーなんですよ。

 

例えば……

 

クルックス管の発明など数々の業績で知られるウィリアム・クルックス(1832-1919)

進化論の生みの親の1人であるアルフレッド・R・ウォレス(1823-1913)

アルゴンの発見など幅広い研究で知られるジョン・ストラット(1842-1919)【ノーベル賞】

血清療法の生みの親である生理学者シャルル・リシェ(1850-1935)【ノーベル賞】

放射能の研究で有名なマリー・キュリー(キュリー夫人/1867-1934)【ノーベル賞】

 

このように「超」がつく一流の科学者たちが心霊研究に参加しています。

もちろん理系の科学者ばかりではなく、ウィリアム・ジェイムズ(1842-1910)やアンリ・ベルクソン(1859-1941)といった、これまた超一流の心理学者や哲学者も関わっています。

霊の研究に直接携わったわけではなくとも、SPRの会員としてはまだまだ多くの著名人の名前を挙げることができます。

例えば桂冠詩人のアルフレッド・テニスンがいます。

小説家・作家も錚々たるものです。『鏡の国のアリス』のルイス・キャロル、『トム・ソーヤーの冒険』のマーク・トウェイン、「ホームズ」シリーズのコナン・ドイルなどです。

今の日本人でも知っているビッグネームが並んでいますね。要するに霊の研究は大きな社会現象だったわけです。

ちなみに「バルフォア宣言」で知られるイギリス首相アーサーバルフォアも会員でした。

 

SPRを創設したのはケンブリッジ大学の教員たちです。

初代会長となったヘンリー・シジウィック(1838-1900)は哲学者・倫理学者でした。日本ではさほど有名ではありませんが、倫理学史でときどき名前が出てくる人です。

シジウィックはキリスト教信仰を失っていましたが、人間が利他的に生きる動機になるものとして「魂の不死」に注目し、心霊現象に関心を持つようになっていたのです。

ちなみにシジウィックの妻エレナ・シジウィックは数学者で、心霊現象の統計分析などに手腕を発揮しました。

エレナの旧姓はバルフォアと言います。実は彼女、SPR会員でもあったバルフォア首相のお姉さんなんです。

そしてイブリンという妹もいて、こちらは先述した物理学者ストラットの妻。この一家がSPRを主導していたんでしょうね。

そしてシジウィックの弟子で古典学者だったフレデリック・マイヤーズ(1843-1901)も「人間は死によって消滅するのか」という問題に悩み、師と一緒に心霊研究を開始します。

マイヤーズは心霊研究を続けるうちに心のメカニズムに関心を持ち、フロイトとほぼ同時期に(もっと早く?)「無意識」「潜在意識」ということを理論的に考察しています。

 

霊出現における信憑性が高いケース

 

さてSPRの活動ですが、彼らは霊出現の報告をできるだけ科学的に収集・調査しようと試みました。

霊の存在を裏付けるものとして彼らが重視したのは次のようなケースです。

つまり「霊を目撃した人がそれと同時に(霊に教えられたりビジョンを見たりして)本人がその時点では知り得なかったはずの情報を伝えられた」という事例です。

もちろんその情報は「事実」として確認できるものでなければなりません。

例えば「Aさんの前にBさんの霊が出現して『私はついさっき死んだ』と語ったが、Bさんは実際にその時刻に亡くなっていた」というケースがこれに該当します。

初期SPRのメンバーが共同で著した『生者の幻像』(1883年発刊)にはそうした事例が数多く記録されています(邦訳はありませんが僕はこれの短縮版を持っています)。

 

しかし「霊の目撃者が正しい情報を語った」というだけでは、その人は何か通常の方法(新聞や手紙など)でそれを知ったのかもしれません。

つまり「霊が目撃された時刻においては、目撃者にはその情報を知る手段がなかった」ということが確認できていなければ、霊の存在を裏付ける証拠としては不充分です。

そこで……

目撃者が霊出現を介して知った情報について、彼がそれを通常の方法で知るよりも前に記録あるいは発言したことが客観的に確認されているものは信憑性が高まるのです。

超常的な方法でそれを知った日時と通常の方法で知った日時の前後関係がはっきりしていれば、嘘やごまかしではないことが明らかだからです。

 

19世紀のイギリスで活躍した政治家で大法官も務めたヘンリー・ブルーアム卿の事例はそうしたものの1つでしょう。

彼は若いころ、旅先のスウェーデンで学生時代の友人の霊を見てしまいました。驚いた彼は日記にその日の出来事の詳細を書き記しています。

そして彼は故郷エジンバラに戻って間もなくその友人がインドで亡くなったという知らせを受けたのです。

このケースの場合、日記を書いた日時と彼が報告を聞いた日時の前後関係が客観的に明確であるため、非常に信憑性が高いと言えるでしょう。

 

懐疑派も転向する衝撃

 

似た事例をもう1つ紹介します。アメリカの名高い女性霊能者レオノラ・パイパー(1859-1950)に関する話です。

彼女はSPRの継続的な調査を受けていましたが、次の話は1889年3月に行われた交霊会(霊と交流するセッション)で起こった出来事です。

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その日は著名な哲学者・心理学者であるウィリアム・ジェイムズとその弟ボブ・ジェイムズ、そしてSPRメンバーのリチャード・ホジソンたちが彼女の交霊会に参加していた。

その交霊会の席上、パイパー夫人に憑依した「フィニュイ」と名乗る霊が突然ジェイムズ兄弟の母方のおばケイトがその日の未明に亡くなったことを告げた。

もちろんその場の誰1人としてその事実を知らなかった。

そこでジェイムズ兄弟とホジソンは事情を書面にしたため「これが書かれたのは死を伝えるいかなる情報も届いていない時点である」と書いて日時も添えてサインした。

3人が解散しジェイムズが帰宅してから数時間後、従姉妹からおばの死を知らせる電報が届いた。

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これは、日時の前後関係が確定している優良な事例と言えるでしょう。

特にホジソンがサインしていることも重要です。実はこのホジソンという人物、何人もの霊媒師のイカサマを暴いて名を上げたSPR随一の懐疑派だったのです。

この時点ではまだゴリゴリの懐疑派だったホジソンがこの不思議な体験の当事者になっているわけです。

 

ホジソンはその後も何年もアメリカでパイパー夫人の調査を続けました。私立探偵を何人も雇うなどして彼女がイカサマをしている証拠を探りましたが無駄でした。

彼の故郷オーストラリアで過ごした青春時代のことを言い当てられたこともあったようです。当然そんなことは誰にも話していません。

ここに至ってホジソンは霊の存在を認めるようになりました。彼の「転向」は科学者をはじめ心霊現象否定派を動揺させたようです。

 

前回までにお話しした臨死体験研究においても、否定しがたいケースが存在することをお伝えしましたが、霊出現の研究でもやはり同じことが言えます。

①不思議な体験をした人が、それを通じて得た(現実世界についての)何らかの情報を証言する。

②その情報が事実であることが確認できている。

③その情報は通常の方法では(その時点において)知ることは不可能だった。

 

これらのことが臨死体験と霊出現における信憑性の高いケースに共通している特徴だと言えるでしょう。

これらを否定しようとするなら(前回も述べたように)「こういう話は丸ごと作り話だ」というしかありません。

上の事例なら、パイパー夫人、ジェイムズ兄弟、ホジソンらが「共謀」して話をでっち上げたことになります。

しかしこれも前回述べましたが、ここまで懐疑主義に徹するならどんな報告も信用できなくなります。事実の報告に依拠する科学そのものが成り立たなくなるでしょう。

懐疑も「いいくらい」のところで止めておかないと有害です。

 

そもそもホジソンが「共謀」に加わったというのは無理があります。彼はこの出来事の後でも何とか霊現象のウソを暴こうと執念を燃やしているほどなのです。

SPRは単なる幽霊好きや幽霊肯定派の集まりと誤解されるかもしれませんが、実は初期のSPRには懐疑論者がかなり多かったんですよ(ただし上で名前を挙げたのはだいたい肯定派)。

信頼性が低いと思う事例を彼らが容赦なく却下していくため、意見の相違から協会の内部分裂が起きたほどです。

僕が思うに、おそらく「偽物」と判定されてしまった本物も多かったのではないでしょうか。ただそうした試練を経て残った事例はかなり信憑性が高いと言えるでしょう。

 

ちなみにSPRという団体は今でも存続していて(!)昔と同じように肯定派と懐疑派が入り混じって仲良く心霊研究をしているようです(笑)

SPRが収集した事例には古くなったものも多いですが、それでも厳しい視点で精選されたものばかりであり貴重な資料であることに変わりはありません。

 

次回「霊が存在する理由(4)すべては偶然だ?」でも引き続き霊出現の話をしていきます。

霊が存在する理由(4)すべては偶然だ?
前回記事「霊が存在する理由(3)幽霊を科学的に調査する」では、19世紀から20世紀にかけて科学的な心霊現象研究が起こったことをご紹介しました。 今回もこの時期の心霊研究に関連して、僕が大事だと思うことを論じてみたいと思います。...

 

 

〈参考文献〉

  • 『幽霊を捕まえようとした科学者たち』(デボラ・ブラム著、鈴木恵訳、2007、文藝春秋)
  • 『英国心霊主義の抬頭』(ジャネット・オッペンハイム著、和田芳久訳、1992、工作舎)