時間なんて存在しない。
時間なんて流れていない。
こんなふうに断言されたら、あなたは何と言うでしょうか？
そんなバカな！
……というのが大半の人の反応でしょう。
だって朝は昼になるし、昼は夜になるし。
子供は大きくなっていくし。
僕もそう思います( ^ ^ ; )
最先端のブロック宇宙論とは
けれども、現代における最先端の科学者の中には、時間の流れというものを大真面目に否定する人たちがいます。
アインシュタインの相対性理論を深く研究する過程で、あるいは相対性理論と量子論とを融合しようとする過程で、こういう考え方が強く出てきているというのです。
その理論の名は「ブロック宇宙論」。
ブロック宇宙論によると、一瞬前の宇宙、この瞬間の宇宙、次の瞬間の宇宙……。これらはまったく別々の宇宙として独立的・並列的に（ある意味では同時的に）存在しています。
そして１つひとつの宇宙は静止画のように完全に止まっていて、動きはありません。
同じ１つの宇宙の中で場面が次々と切り替わっていく（すなわち時間が経過する）のではなく、それぞれの場面は独立した宇宙なのだというわけです。
それでは、みんなが感じている時間の感覚というのは何なのか？
僕の見るところ、この質問に対するブロック宇宙論者たちの回答は、まだまだ整理されていないように思えます。
ある人は、「今の宇宙Aから別の宇宙Bへと移り変わっていくが、人間の脳はその移り変わりを時間経過として感じる」と言っています。
けれども、自分という人間も、それぞれの宇宙に別々に（静止した存在として）いるはずです。宇宙Aにいる私A、宇宙Bにいる私B……というふうに。
宇宙の〈移り変わり〉を経験するためには、いくつもの宇宙を体験していることが前提になるはずです。各宇宙にバラバラに存在するはずの私の、どの私が多くの宇宙を体験しているのでしょう？
分かりません。
人間の〈意識〉だけは各宇宙を貫いて連続しているとでも言うのでしょうか？
管見の及ぶ限り、この疑問にスッキリと答えてくれる議論にはまだ出会っていません。
ただ、もしかすると、僕がこの分野の専門家ではないから、何か大きな見落としをしているのかもしれません。
それに、これからブロック宇宙論の研究がさらに進んでいけば、もっと明快な回答が登場してくるかもしれません。
いずれにせよ、なかなか興味深い理論であることは事実です。
パルメニデス ～時間否定論の先駆者～
ところで、なんと今から2500年も前に、これと似たような説を主張した、パルメニデス（前515頃－前450頃）という哲学者がいました。
パルメニデスの主張によれば、世界には時間も変化もなく、すべては静止しています。何かが運動するということもありません。
何を言っているんだ‼ 現実に春は夏になり、星空は運行しているじゃないか。
こう反論しようものなら、パルメニデスはこう言いました。
それは「思い込み」（ドクサ）だ。
パルメニデスの反論
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時間など存在しない。世界は変化などしていない。それが真実だ。
もし世界が変化しているように見えるというなら、それは君の錯覚なのだ。
そもそも感覚などは世界を正しく映しはしないのだ。文句あるか？
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こう来ると筋金入りで、なかなか反論するのも大変です。
ブロック宇宙論とパルメニデスが似ているというのは、別に僕の牽強付会（こじつけ）ではなく、実際にブロック宇宙論者やそれに近い人たちが言っていることです。
ジュリアン・バーバーやカルロ・ロヴェッリといった、現代科学を牽引する物理学者たちが、自らの先駆者としてパルメニデスの名を挙げているのです。
もちろん、似ているのは時間推移を否定するところだけで、パルメニデスは多くの宇宙があるなどとは言っていませんが。
ちなみに、「アキレウスと亀」というお話をおそらく御存じでしょう。
足の速いアキレウスと足の遅い亀がいて、もし亀の方が早くスタートしていたなら、後からスタートしたアキレウスは永遠に亀に追いつけない……という話ですね。
この有名な話は、実はパルメニデスの弟子であるゼノンが考え出したものです。
師弟揃って、ぶっとんだ議論を編み出したものですね(-_-;)
さてパルメニデスの哲学は、少し形を変えて後輩哲学者のプラトンに受け継がれました。
直感に反する奇妙な説に思えますが、プラトンを介して西洋哲学を大いに潤したのですね。
ともあれ、現代の最新の宇宙論と古代の哲学とが一致しているというのは、何とも不思議な感じがします。
このことにロマンを感じてしまうのは僕だけでしょうか。（了）
- パルメニデス哲学の存在論とは……
- 世界には1つのものだけが存在する⁉ 変化ばかりか多様性も否定。
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