第1号哲学者タレス ~神話から哲学へ~

哲学者ごとの解説

古代の哲学者といえば、どんな名前が思いつくでしょうか?

ソクラテス? プラトン?

さもありなん。

 

しかし、彼らは最初期の哲学者というわけではありません。

哲学の営みそのものは、もっとさらに数百年も前から始まっていたのです。

 

それでは(少なくとも記録に残っている限りでの)最初の哲学者とは誰か?

それはタレス(前624頃-546頃)という人物です。

 

彼は幾何学(図形問題)で重要な定理を証明したほか、前585年に起きた日蝕を予言し、的中させたことでも有名です。

天文現象が「神の御業」と思われていた古代にあって、おそらくは何らかの観測記録に基づいて日蝕の時期を推論したのでしょう。

長期間の観測記録がすでにあったであろうことも驚きですが、タレスの合理的精神が時代を超越していたことが分かりますね。

 

世界のアルケー(根源)を探究する合理的精神

 

それでは、どうして彼が「最初の哲学者」という称号を得ているのでしょうか。

それは、彼が「世界の万物は水からできている」と説いたからです。

つまり、水はあらゆる物質を構成する素材であるということですね。

 

このように、すべてを構成する根源的な素材のことを「アルケー」(根源)と言います。

アルケーには「根源的素材」という以外にもいくつかの意味がありますが、ここでは触れません。

とにかくタレスによれば、世界のアルケーは水だというわけです。

この世には水以外にも多くの物質があるように見えますが、それらも実は、水がいろいろと変化することによってできているということですね。

 

こう聞くと、物質が素粒子で構成されていることを知っている現代人としては、ずいぶん幼稚なことを言っていると感じるかもしれません。

確かにタレスの主張そのものは素朴かもしれませんが、当時としては「世界の根源的素材を知りたい」という姿勢自体がとても画期的だったのです。

つまり、いつでもどこでも、世界の誰にとっても正しいと言えるような真実を探究する科学的態度の現れと言っていいものなのです。

 

それ以前でも「世界がなぜ存在しているのか」「どうやって維持されているのか」といった根本的な問題は、各民族の神話や伝承によって語られていたでしょう。

しかし、それらはやはり民族・部族・国民ごとにバラバラでした。

タレスはこういう状況を良しとはせず、万国共通・永遠不変の真理を求めたのです。

 

これこそが、合理的思考態度としての「哲学」「科学」が誕生した瞬間でした。

科学でもあると言うのは、「すべては水からできている」という主張なら、(正しいかはともかく)実験や観察で調べることができそうだからです。

神話や伝承で一方的に語られる内容ではなく、場合によっては検証できるかもしれない主張になっていることがポイントです。これこそが科学の重要な特徴の1つですから。

 

弟子たちもアルケーを探究した

 

タレスの後も、弟子たちによってアルケーの探究は継続されました。

 

弟子のアナクシマンドロスは、「無限なるもの」(ト・アペイロン)。

さらにその弟子のアナクシメネスは「空気」。

後世のヘラクレイトスは「火」

……などなど。

 

無限なるもの……については少し解説が要るかもしれませんが、割愛させて下さい(笑)

それ以外については分かりますね。

内容はそれぞれ違いますが、世界を構成する素材を探究しようという試みは同じです。

 

こうしてアルケー論は初期ギリシャ哲学の基本的テーマとなり、さらに後世の化学(および錬金術など)に継承されていったのです。

いずれにせよ、こうした普遍的真理・不変的真理への憧憬が、今で言うところの科学的な精神を準備したのです。

このことが、その後の人類史に及ぼした恩恵は計り知れないでしょう。

僕たちは、人類発展のステージを1つ上げたこの偉人の名前を、もう少し憶えておいてあげてもいいのかもしれません。(了)

 

  • タレスの思想をもっと詳しく知りたい。
  • アナクシマンドロスの「無限なるもの」(ト・アペイロン)とは?
  • 「暗闇の人」の異名をとるヘラクレイトスとは?

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